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逃げる太陽 ~俺は名無しの何でも屋!~

逃げる太陽 ~俺は名無しの何でも屋!~

一年で一番長い日 77、78

「たしか、至近距離から大型の刃物で・・・それで、出血多量のため・・・」
片手で顔を押さえ、葵が呟いた。俺が贋の血の海に過剰反応してしまった訳を悟ったんだろう。

「俺たち、あなたに本当に酷いことをしたんだね。ごめ・・・」
俺は軽く手を振ってその先をさえぎった。

「もういいよ。理由があったんだろう。それを教えてくれよ」

俺の言葉に、芙蓉は首を振った。
「あたしたちが、想像力に欠けていたのは確かだわ。知っていたはずなのに、あなたの弟さんのこと」

「うん・・・」
うつむいたまま、葵も頷く。

「『負うた子に教えられ』ってこういうことなのね。夏樹が一番分かってたみたい。一番大切なことを」
葵は腕の中の子供の背中をやさしく撫でた。

若い芙蓉が古いことを言うので、俺はちょっとおかしくなった。

「俺もしょっちゅう娘に教えられてるよ。子供っていうのは、あれでなかなか侮れないもんだ」

そうだ。案外、子供が一番本質を見抜いていたりする。きっと純粋だからだろう。子供を見ていると、極めて透過性の高い透明な結晶で出来てるんじゃないかと思うことがある。

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入った光を、そのまま通す。屈折させることなく。
大人になるにつれ屈折率が増して、入った光は今度はどの角度で出て行くやら。

けれど、しょうがない。人はいつまでも純粋な子供のままではいられないのだから。

「だから、ま、いいよ、もう。君たちが謝るっていうなら、許すことにするよ。夏樹くんに免じて」

もうっ、騙されたっていうのに、義兄さん、甘い! ころころ金平糖より甘い! 智晴の声が聞こえてきそうだが、無視することにした。

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「あなたの心も省みずに、俺たちが酷いことをしてしまった免罪符にはならないけど・・・」

葵がまっすぐな目で俺を見て、言った。

「あの日俺たちが阻止したかった取り引き、あなたの弟さんの死にも関係あったかもしれないんだ」



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関係・・・弟の死に?

どういうことだ。俺は呟いていた。警察の見解では、弟はヤクザの抗争がらみのとばっちりを受けたのではないかということになっている。犯人はまだ捕まっていない。

「その、取り引きというのは?」
訊ねる声が、震えそうだ。何か得体の知れない恐怖が、俺の背中をじわじわと伝っていく。

「多分、ドラッグ」
葵は答えた。
「どっかの荒れ果てた国から流れてきたらしいんだよ。それと、武器」

「ドラッグ? 武器?」
どこの国の話だ。俺は呆然とした。ここ、日本だよな? 武器なんて水鉄砲だけにしてほしい。

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それにドラッグって。近頃のバカな若い奴らが違法滞在の外国人からそういうものを買ったりしてるってのは知ってるが、そんなものの取り引きをこんな高級ホテルでやるもんなのか?

「麻薬と、武器。その二つの仲立ちをする、その報酬を得る、そういう取り引きがあの日行われるはずだったの」

芙蓉が後を引き取った。

「それを阻止したくて、死体発見騒ぎを起こしてこのフロアに警察を呼び込もうと計画したのよ」

「そ、そんなことしなくても、警察に通報すれば良かったんじゃないのか?」
そうだよ、んなまだるっこしいことしなくても。

俺の問いに、芙蓉は首を振った。
「無理よ。握りつぶされるのがオチ。内通者がいるらしいの」

「内通者・・・? 警察の内部に?」
「ええ、そうよ」

犯罪者と通じている警察関係者がいるっていうのか?

「あなたの弟さんは、ドラッグの流れを追っていてこのことに気づいたらしいの。詳細を調べようとして内偵してたところを、誰かに・・・」

「・・・何で君たちはそこまで知ってるんだ?」
俺は喉がカラカラになるのを感じた。手足の先が冷たくなる。弟は、一体何に首を突っ込んだんだ?

「最初はわからなかったよ」
葵が言う。

「俺たちが調べているものと、あなたの弟さんが追っていたものが同じだなんて考えもしなかった。俺は会ったことないしね。でも芙蓉が気づいたんだ」

ヘウレーカ!ひらめきの瞬間





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